マグナ「ラージュって俺よりも年下なんだよな?」
ラージュ「多分、そうだと思う。数えたことないけど。」
マグナ「そうなのか‥‥‥。でも、まあいいや。一応は俺のほうが年上ってことにしとくとして、
何か困ったことがあったら相談してくれよ。力になれるなら、なんでもしてやるからさ。」
ラージュ「なんで???」
マグナ「年上が年下の面倒をみるのは当然だろ―――って、そういや、ラージュはずっと一人だったんだっけか。」
ラージュ「そっか‥‥‥。誰かと一緒に暮らすって、頼ってもいいことなのか!?」
(マグナ座る)
ラージュ「それじゃ早速、お願いしていいかな?えっと、えーっと‥‥‥。」
マグナ「おいおい、無茶な注文はするなよ。俺にでもできることで頼むぞ?」
ラージュ「じゃあ‥‥‥。」
ラージュ「マグナ、何してるんだ?」
マグナ「ああ、ラージュか。 ここで星を見てたんだ。」
ラージュ「星‥‥‥? でも、今夜はそこまできれいに晴れてないよな?
そんなにじっくり眺めるほどの星空でもないんじゃないか?」
マグナ「確かにそうなんだけどさ‥‥‥、
俺のいた世界とは見える星がまったく違うから、それだけで、もの珍しいんだよ。」
ラージュ「なるほどな‥‥‥。マグナにとっては、この星空が新鮮なのか。」
マグナ「ああ。星だけじゃなくて、俺には、この世界で目にするもの全部が新鮮だよ。
ラージュはずっとここにいるからこんなの見慣れてて、今さら何も思わないんだろうなあ‥‥‥。
でも、本当にここは不思議な場所だよ。時間や次元の違う世界の人や物が集まってくるなんて。
別次元のトリスと会えたことも驚きだったし、俺から見たらフォルスたちなんて、未来の人だしさ。
今までのどの出会いも、ほんと俺の想像を超えてたな‥‥‥。」
ラージュ「それはオレも同じかな? 驚きのない出会いなんてひとつもなかったよ!
別の世界から来たみんなに教えられることも多いし、一緒にいて楽しい。
みんなの存在が、オレにとって宝物になるくらいに‥‥‥。」
マグナ「わかるよ‥‥‥。出会いっていうものは、やっぱり素晴らしいよな。
‥‥‥もしかすると、これから、もっと別の世界から来た人たちと出会えたりするかもしれない。
みんな、ここに来たくて来るわけじゃないから、こう言うのは不謹慎かもしれないけど‥‥‥、
ここでの新しい出会いを思うと、すこしドキドキしてくるよ‥‥‥!」
ラージュ「ははは! それはオレも同感だ。
‥‥‥だけど、マグナはやっぱり元いた世界に戻るべきだよ。
マグナの帰りを待っている人たちが元の世界にはいるんだろ?」
マグナ「そうだよな‥‥‥。みんな心配してるんだろうなって、考えたりもするよ。
向こうで、やらないといけないこともあるし‥‥‥。」
ラージュ「だったら、いくらここが楽しくても、マグナは帰らないといけないよな!?」
マグナ「うん、ラージュの言う通りだな! とは言え、帰る方法もまだ見つからないし‥‥‥。
まだ当分はここにいるしかないからさ、一緒に楽しくやっていこう!
いろいろと頼りにしてるよ、ラージュ。」
ラージュ「ああ、マグナが無事に元の世界に戻れる日まで、よろしくな!!」
???「ぐぅ‥‥‥ぐぅ‥‥‥。」
ラージュ「あれ、誰かいるのか?」
マグナ「ふあぁ‥‥‥。」
ラージュ「マグナか! なんで屋根の上で寝てるんだ!?」
マグナ「ああ、ラージュ‥‥‥。お気に入りの場所、勝手に使わせてもらってるよ。
‥‥‥っ、おっと!! 危ない、落ちるところだったよ‥‥‥。」
ラージュ「おいおい‥‥‥。
こんなところで寝るからだよ。でも、どうして屋根の上なんかに‥‥‥?」
マグナ「いや、ちょっとね‥‥‥。
アメルが掃除を手伝えって言うもんだからさ、捕まらないように隠れてたんだ。」
ラージュ「素直に手伝ったらいいのに‥‥‥。そんなに掃除がイヤなのか?」
マグナ「うーん、そこまでイヤってわけじゃないけど、単に眠かったっていうか‥‥‥。
それにライやトルクが手伝うって言ってたから、だったら俺は手伝わなくてもいいかなって。」
ラージュ「な、なるほど‥‥‥。」
マグナ「ライといいトルクといい、年下なのにしっかりしてる子たちが多くて助かるよ。
俺も安心して昼寝ができる‥‥‥。」
ラージュ「昼寝って言っても、もう夜だけどな‥‥‥。」
マグナ「はははは‥‥‥。 確かに。」
ラージュ「なあマグナ、いくらしっかりした仲間が多くても、昼寝ばっかりしてるのもどうかと思うぞ?
もっとみんなと協力し合わないと。」
マグナ「‥‥‥と言ってもな、俺もそんなに器用じゃないし、俺よりできる連中に任せたほうがいいと思うんだ。」
ラージュ「ほんとにそれでいいのかなあ?」
マグナ「ふあぁあ‥‥‥。ねむ‥‥‥。」
ラージュ「やあマグナ、ここにいたのか。」
マグナ「ああ、のんびりここで、夕涼みをしてたんだ‥‥‥。」
ラージュ「そうか、それにしてもだいぶ眠そうだな?」
マグナ「うん、今日は昼寝する暇がなかったからさ。この時間になると、眠くて眠くて‥‥‥。」
ラージュ「ははは‥‥‥! マグナらしいな。」
マグナ「ああ‥‥‥もうダメだ、まぶたに力が入らない‥‥‥! 早くベッドに入らないと!
‥‥‥そういうわけで、俺は部屋に戻るよ。おやすみ、ラージュ。」
ラージュ「おやすみマグナ。また明日。」
ラージュ「‥‥‥?? あれ、マグナちょっといいか?」
マグナ「‥‥‥ん、どうかしたのか?
もう眠いから、たいしたことじゃないなら明日にしてほしいんだけど‥‥‥。」
ラージュ「いや、その‥‥‥。マグナに、何かついてるみたいで‥‥‥。」
マグナ「ついてるって、どこに?」
ラージュ「そこだよ、そこ。」
ラージュ「オレ、みんなの話を聞いていて気がついたんだ。誰にでも、家とか家族があるんだなって。
他の世界じゃ、それが当たり前なんだろ?」
マグナ「そうだな。俺の場合は、もともと孤児だったけど‥‥‥。
ああ、でも‥‥‥。 ‥‥‥‥‥‥。」
ラージュ「マグナ、どうしたんだ?」
マグナ「‥‥‥なあラージュ。俺の一族のことを聞いてくれるか?」
(マグナ座る)
ラージュ「一族っていうと‥‥‥?」
マグナ「俺はさっき言った通り孤児だったんだけど、血筋としてはクレスメント一族の血を引いているんだ。
クレスメント一族は、リィンバウムの召喚師として、特別強い力を持っていたんだけど、
大昔の戦争で、大きな罪を犯した‥‥‥。」
ラージュ「罪‥‥‥?」
マグナ「人間の味方になってくれていた‥‥‥ある天使を‥‥‥兵器に改造してしまったんだ。
‥‥‥恐ろしい話だろ?」
ラージュ「そうだな‥‥‥。 命を物みたいに扱うなんて‥‥‥。
そんなことしたらどの世界でだって、許されるわけない。」
マグナ「その通りだよ。 人間に味方してくれた天使を‥‥‥。
大罪を犯したクレスメント一族を、天使や龍神たちは強く非難した。
彼らは人間を見限って、元の世界に戻って行ったらしいよ。」
ラージュ「それから、マグナの祖先たちはどうなったんだ?」
マグナ「クレスメント一族は、罰として力も知識も取り上げられた。
そして北の地に追いやられ、細々と生きていくことになったんだ。」
ラージュ「そうか‥‥‥。そんなことがあったんだな‥‥‥。
その大昔の祖先が犯した罪のせいで、マグナは孤児になったのか?」
マグナ「‥‥‥そうかもしれないね。
一族が貧しい生活を強いられなければ、孤児も生まれなかっただろうから。」
ラージュ「マグナ‥‥‥。」
マグナ「‥‥‥アメルなんだよ。」
ラージュ「え?」
マグナ「召喚兵器ゲイル計画の唯一の犠牲者。豊穣の天使アルミネは‥‥‥今のアメルだ。」
ラージュ「!?」
マグナ「兵器として改造されたアルミネは堕天使となり、転生の輪から外れ生まれ変わることを許されず、
その魂は、禁忌の森で彷徨い続けていたんだ。」
ラージュ「‥‥‥それが、アメル‥‥‥。」
マグナ「‥‥ああ、そうだ。だけどアメルは、俺を許してくれた‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥。」
ラージュ「なあマグナ‥‥‥、どうしてそのこと、オレに話してくれたんだ?」
マグナ「このことはアメル自身も知ってるし、俺の仲間はみんな知ってるよ。
同じ仲間であるラージュには、一切隠さず話しておきたかったんだ。」
ラージュ「そうか‥‥‥。‥‥‥オレはマグナを尊敬するよ。」
マグナ「ラージュ‥‥‥?」
ラージュ「仲間たちに背を向けず、自分の運命に立ち向かうマグナを、オレは尊敬する!
他の人がどう思おうと、それは変わらないよ!」
マグナ「ラージュ‥‥‥ありがとう‥‥‥。」
ラージュ「‥‥‥‥‥‥。」
マグナ「ラージュ、どうしたんだ?こんなところで随分夜更かしじゃないか。」
ラージュ「ああ、マグナ‥‥‥。
そう言うマグナこそ、珍しいじゃないか、夜更かしなんて。」
マグナ「ははは‥‥‥。俺だって眠れない時くらいあるよ。」
(マグナ座る)
マグナ「これから最後の戦いだと思うとな‥‥‥。
それを考えるとさすがに緊張するし、不安だってあるよ。」
ラージュ「そうだよな‥‥‥。マグナの気持ち、わかるよ。
オレも、いろいろ考えてたらなんだか眠れなくなっちゃってさ‥‥‥。」
マグナ「やっぱり最後の戦いのことか?」
ラージュ「いや、戦いに関しては、全力を尽くすってことしかできないからさ。
もう迷ったり不安になることはないんだ。」
マグナ「そうなのか‥‥‥考えてみれば俺も、今回は全力でラージュをサポートするだけだよな。
そう考えると、すこし気分が楽になってきたな‥‥‥。ありがとう、ラージュ。
でも、それならどうしてラージュは眠れないんだ? 他に眠れない理由があるんだろ?」
ラージュ「そうだな、オレにとっては戦いそのものより その後のことのほうが大きいんだよな‥‥‥。
いずれみんなやマグナが元の世界に戻ったらってこと、考えたらなんだか不安になっちゃってさ‥‥‥。」
マグナ「ラージュ‥‥‥。
そうだよな、なんだかんだで俺もラージュたちとの共同生活は長かったもんな‥‥‥。
俺だって、ラージュやみんなと離れるのは寂しいよ‥‥‥。」
ラージュ「でも、マグナやみんなはやっぱり元の世界に帰らないといけないし、
オレは、笑顔でみんなを送り出さないといけないよな?」
マグナ「寂しいけど、ラージュの言う通りだな‥‥‥。」
ラージュ「‥‥‥‥‥‥。」
ラージュ「‥‥‥なあ、マグナ。元の世界に戻っても、オレ、会いに行くから!」
マグナ「会いに来る?? そうしてくれたらうれしいけど、そんなことができるのか!?」
ラージュ「だってさ、考えてもみろよ。マグナたちがこの世界に来ることができたんだぜ?
だったら、オレがマグナたちの世界に行くことだってできるはずだよな?」
マグナ「‥‥‥! それは、そうかもしれないな‥‥‥。」
ラージュ「だろ? ははは。」
マグナ「なら、俺は待ってるよ!
ラージュにリィンバウムのいろんなところを見せてあげるよ!
すごい景色や、旨いものや‥‥‥。それから‥‥‥。」
ラージュ「うん! でもオレが一番見たいのは、マグナやみんなの笑顔かな。
こうやって大切な仲間となんでもない話をする時間が、オレにとっては何より大切だからさ‥‥‥。」
マグナ「ラージュ‥‥‥。」
ラージュ「マグナたちとまた会うためにも最後の決戦、必ず勝たなきゃな!!」
マグナ「ああ、必ず勝とう!! お互いの、そして俺たちの未来のために‥‥‥!!」
(最終戦前)
ラージュ「オレたちは、消えることにもう怯えたりなんかしない。 たとえ消えてしまっても、みんなの魂に生き続ける!
魂に強く刻まれた想いはけして消えない。 オレはそれを信じる!!」
マグナ「ああ、俺たちは負けない。
『異識体』に、俺たちの絆の強さを見せてやろう!」
(最終戦後)
マグナ「俺、君のことは忘れない。
魂に刻んで、絶対に忘れたりしないと誓うよ!」
ラージュ「オレだって‥‥‥! 絶対に‥‥忘れるもんかっ!」
ラージュ「ありがとう‥‥‥。」
【大樹の森】
マグナ「ふぅ‥‥‥あともう少しか。」
ハサハ「おイモ、たくさんできた‥‥‥ね。」
アメル「今回のおイモは色も形も良くて、上出来です。
たっぷり愛情を注いで育てましたから、きっと美味しいですよ。」
マグナ「ああっ、食べるのが楽しみだな。
でもさすがに俺たちだけでは食べきれないし、
ミモザ先輩達にもおすそ分けしてあげよう。」
アメル「それは良い考えですね。」
ハサハ「‥‥‥うん‥‥‥また、あいにいきたい。」
アメル「では、日が暮れる前に全部収穫してしまいましょう。」
マグナ「よぉし、気合い入れて残りも頑張るか!」
ハサハ「‥‥‥おにいちゃん、ほっぺた。」
マグナ「ん?」
アメル「あ‥‥‥ふふふっ。」
マグナ「な、なんだよ?」
ハサハ「‥‥‥ついてる、よ?」
マグナ「え、何が?」
アメル「ふふ‥‥‥土ですね。」
マグナ「なんだ、最初からそう言ってくれれば‥‥‥。
‥‥‥っと。これで取れたかな?」
ハサハ「‥‥‥もっと、ひろがった‥‥‥ね。」
アメル「ふふっ‥‥‥あははははっ。
子供みたいですよ、マグナ。」
マグナ「も、もういいよ! このままでも‥‥‥。」
ハサハ「はい、おにいちゃん‥‥‥
このてぬぐいで、ふいて?」
マグナ「ありがとう、ハサハ。」
(マグナのお腹が鳴る)
アメル「ふふ、マグナったら‥‥‥。」
マグナ「いやぁ、ずっと働きっぱなしだと腹が減っちゃって
そろそろ我慢が‥‥‥。」
ハサハ「‥‥‥もうすぐ、ごはん。がんばる。」
マグナ「そうだな。 今夜は何の料理にしようか‥‥‥。
なぁ、ラージュは何が食べたい?」
アメル「えっ‥‥‥? マグナ、それはどなたですか?」
ハサハ「ハサハ、ラージュ‥‥‥しらない、よ?」
マグナ「あれ? えっと‥‥‥誰だろうな?」
アメル「それを私たちに聞かれても‥‥‥。」
マグナ「でも、どこかで会ったような‥‥‥。」
‥‥‥なあ、マグナ。 元の世界に戻っても、オレ、会いに行くから!
マグナ「ラージュ! そうだ、君はラージュだよ!
俺はどうして忘れてしまっていたんだ‥‥‥
共に戦い、いつも笑い合っていた大切な仲間のことを。
この大切な日常を守ることができたのは、彼らのおかげだというのに!
忘れてしまったのは、戦いが終わって
俺がリィンバウムに戻ってきたから‥‥‥?
今、彼らはどうしているんだろうか?
消えたなんて思いたくないけど、でも‥‥‥。
‥‥‥っ!
ごめんな、ラージュ‥‥‥俺、君に助けてもらうばかりで、
何もお返しができてない。
まして君のことを忘れてしまうなんて!
本当にごめん、ラージュ‥‥‥!」
アメル「マグナ、大丈夫ですか? 涙が‥‥‥。」
ハサハ「‥‥‥どこかいたい、の?」
マグナ「‥‥‥な、なんでもない。 ちょっと目にゴミが入っただけだから。」
アメル「あっ‥‥‥手の甲でこすったら、また土汚れが‥‥‥。」
マグナ「‥‥‥あ。
たはは‥‥‥またやっちゃった。」
ハサハ「おにいちゃん‥‥‥やっぱり、へん。」
マグナ「(ラージュたちのこと、ふたりには言わないでおこう。 俺はとっさにそう判断したんだ)
(忘れていた方が幸せなこともあるって、思ったから)」
でも、俺だけは‥‥‥。
俺だけは、君たちのことをけして忘れない!
俺が想い続ける限り、君たちの存在がなかったことにはならないはずだから。
自分たちが消えることも覚悟で、俺たちの日常を取り戻してくれた‥‥‥別の世界の仲間たち。
リィンバウムに戻ってきた俺が、もう君たちにしてあげられることはないかもしれないけど‥‥‥。
俺は大切に守っていくよ。君と過ごした、かけがえのない日々の思い出を。
ありがとう、みんな‥‥‥。
ありがとう、ラージュ!君に出会えて本当に良かった!
ラージュ「オレも同じだよ。マグナに出会えて良かった。ありがとう‥‥‥!」
マグナ「え‥‥‥!?
今、確かにラージュの声が‥‥‥。」
アメル「マグナ、急がないと日が暮れる前に終わりませんよ?」
ハサハ「サボり、よくない‥‥‥よ?」
マグナ「はは‥‥‥そうだよな。ごめん。」
俺は確信が持てた。ラージュたちは、きっと生きてる!
ここではないどこかで、俺たちのことを見守ってくれてるんだ。
だから俺は懸命に生きよう。君が守ってくれた、このリィンバウムで。
そしていつまでも守り続けるよ。いつか君が来た時に‥‥‥。
君が守ったこの世界を、誇れる世界にしておくために!
END