ラージュ「やあカノン、なにか見えるのか?」
カノン「夜ですからなにも。でも、それが珍しいですね。
なにもないように見えても、家々の灯りが、多少は目に入るものだと思ってました。」
ラージュ「うん、ここにはオレしかいないからね。」
カノン「ラージュさんは、いつからこの世界にいるんですか?」
ラージュ「う〜ん、その質問はいろんな人からされるんだけど‥‥‥。
自分自身でもよくわからない。物心ついたときから、ずっといるし。」
カノン「たったひとりで、この世界に?」
ラージュ「ひとりじゃないけどね。パッチもいたし。」
カノン「‥‥‥少しだけ、貴方の気持ちがわかるような気がします。」
ラージュ「オレの‥‥‥気持ち?」
カノン「ボクは鬼神と人間の間に生まれました。半人半鬼の響界種だったので、親にも捨てられて。
貴方と一緒で、そんなボクにとっては、世界で信頼できる人はバノッサさんだけでした。
他に接点を持とうなんて、思っていませんでしたし。」
ラージュ「カノン‥‥‥。」
ラージュ「あれ? カノンも、ここで休憩?」
カノン「ラージュさん、こんばんは。ちょっと夜風に当たっていました。」
ラージュ「バノッサと一緒だと、なんだか疲れそうだもんね。」
カノン「ふふふ‥‥‥みなさん、そう言いますね。
でもああ見えて、実はいい人なんですよ。」
ラージュ「えっ!? バノッサが、いい人?」
カノン「はい、いい人です。
ワガママ言ったり、すぐケンカしたりするけど、ボクが本気でお願いしたら、ちゃんと聞いてくれます。
全然、他人のことは気にしてないようで、ちゃんと気がついてくれることもあるんですよ。」
ラージュ「そうなのかな? オレにはそう見えないけど。
どっちかって言うと、積極的に突っかかって行くようなイメージが‥‥‥。」
カノン「それもこれも、いろいろ気づいた上でやってるんだと思いますよ。
だからちゃんと説得すれば、こちらの都合も聞いてくれます。」
ラージュ「そうなんだ‥‥‥。
(バノッサの方が親分だったはずだけど、実はカノンが飼い慣らしているんじゃ‥‥‥?)
カノンって実はすごいんだね。」
カノン「え? なんの話ですか?」
ラージュ「あ、いや。なんでもないよ。」
カノン「はぁ〜。」
ラージュ「どうしたんだよ? ため息なんてついて。」
カノン「その‥‥‥、悩みというか。ため息をつきたくなるようなことがあって‥‥‥。」
ラージュ「オレでよければ、相談に乗るよ。力不足かも知れないけどさ。」
(カノン、座る)
カノン「ボクが『響界種<アロザイド>』であることは、知っていますよね。」
ラージュ「ええっと、両親が違う世界の人だったんだよね。」
カノン「そうです。シルターンの鬼神とリィンバウムの人間の間に生まれました。
響界種は両親の能力も持ち、さらに強い力を持つこともあるんです。」
ラージュ「両親以上の力、か。だからカノンはあんなに強いんだね。」
カノン「でもそれは、忌むべき力です。そのせいでボクは、母にも捨てられてしまったし。」
ラージュ「で、でもその力のおかげで、みんなすごく助けられてるんだぜ。」
カノン「ありがとう、ラージュさん。
でもボクは、時々わからなくなるんです。自分は本当に生まれてくるべきだったのかって‥‥‥。」
ラージュ「(カノンが生まれてくるべきだったのかなんて‥‥‥)」
カノン「こうしていると忘れてしまいますが、いつか帰る日が来るんでしょうか‥‥‥。」
ラージュ「そのためにみんな頑張っているんだと思ってたけど。カノンは、元の世界に帰るとマズいことでもあるの?」
カノン「マズい、というのとは少し違うのですが‥‥‥。
実はこの世界に来る前、バノッサさんは怪しい集団の協力を受け入れるか迷っていたんです。」
ラージュ「怪しい、集団?」
カノン「黒装束の、召喚師たちです。
幸い、ここに来たことで保留になっていますが、戻れば決断することになるでしょう。」
ラージュ「そうだったのか。それで、カノンはその話をどう思ってるの?」
カノン「できれば、やめてほしいです。確かに彼らの提案に乗れば、力を得ることが出来る。
でも、そんなことが無償なはずがない。絶対になにか裏があると思うんです。」
ラージュ「カノンの気持ちは、もうはっきりしているんだね。」
カノン「けれど、ボクは響界種<アロザイド>だから‥‥‥。それで召喚師に対して先入観があるだけなのかも。」
ラージュ「オレは、カノンの判断が間違ってるなんて思わない。
本当に偏見に濁っている人たちは、自分でそのことに気づいたりできないよ。」
カノン「ラージュさん‥‥‥。」
ラージュ「だからわかってもらえるまで、何度でもバノッサに訴えるべきだと思う。
バノッサだってバカじゃないから、カノンが心から案じているなら聞き入れてくれるさ。」
カノン「ありがとうございます。ちゃんと話して、止めて見せます。
ボク以外に、ちゃんと忠告出来る人はいないんだから。」
ラージュ「その意気だよ。頑張って!」
カノン「ここから見る景色も、もうすぐ見納めかも知れませんね。」
ラージュ「決戦、か‥‥‥。なんとしても勝たなきゃな。
それでみんなを、元の世界に帰さなきゃ。」
カノン「ラージュさん、ボクも全力を尽くします。この鬼の力、全部使います。」
ラージュ「ありがとう。カノンがそう言ってくれれば千人力だよ。」
(カノン、座る)
カノン「前はこんな力、なくなればいいのにと思っていました。でも今は、みんなのために役立てられてうれしいです。
バノッサさんも前より優しくなってきているし、この世界に来てよかった。」
ラージュ「ええっ!? あれで優しくなったの?」
カノン「ははは、あれでも、ですよ。
ナツミさんも同意見ですから、ボクの気のせいではないはずです。」
ラージュ「そうだったのか‥‥‥。カノンは苦労してたんだな。」
カノン「ええ。でもこれなら元の世界に帰っても、以前のように心配しないですみそうです。」
ラージュ「よかったじゃないか。
きっかけがあれば、状況っていくらでも変わるものなんだな。」
カノン「本当にそうですね。でもしれはラージュさんも同じですよ。」
ラージュ「オレも、同じ?」
カノン「希望を持ち続けて頑張っていれば、運命なんて変えられる。
だから一緒にがんばりましょう!」
ラージュ「カノン‥‥‥。ありがとう、オレも頑張るよ。」
(最終戦前)
ラージュ「オレたちは、消えることにもう怯えたりなんかしない。 たとえ消えてしまっても、みんなの魂に生き続ける!
魂に強く刻まれた想いはけして消えない。 オレはそれを信じる!!」
カノン「ここにいるみなさんを怒らせると、怖いですよ? ちなみに僕も少し怒っています。」
(最終戦後)
カノン「迷惑かけちゃったけど、出会えたのがあなたで本当に良かったです。ありがとうございました‥‥‥。
ボク、あなたのことは忘れません。魂に刻んで、絶対に忘れませんから‥‥‥!」
ラージュ「オレだって‥‥‥! 絶対に‥‥忘れるもんかっ!」
ラージュ「ありがとう‥‥‥。」
【隠れ家】
カノン「バノッサさん、今戻りましたよぉ。」
バノッサ「だいぶ遅かったじゃねェか。何しに行ってたんだよ?」
カノン「すみません、思ってたより時間がかかっちゃって‥‥‥。
食材を手に入れてきたんです。もう、だいぶ少なくなっていたので。
‥‥‥ほら、バノッサさんの好きな干し肉も、ありますよ。」
バノッサ「あァ!? んなの、オレ様がいつ好きだなんて言ったんだよ!」
カノン「あれぇ、自分で気付いてなかったんですか?
バノッサさん、食事の時っていつもコレから食べるじゃないですか。」
バノッサ「‥‥‥‥‥‥。」
カノン「それから、一口だけとっておくんです。最後のお楽しみって感じで。
ふふ。あれって、無自覚だったんですね。
ボクはてっきり、わざとそうしているのかと‥‥‥。」
バノッサ「う、うるせぇ! オレ様が何をどう喰おうと、オレ様の勝手だろうがッ!」
カノン「ええ、そうですね。」
バノッサ「チッ‥‥‥!
テメェが帰ってきたら、話そうと思ってたことがあったが‥‥‥。
そのへらへらした顔を見たら、話す気が失せたッ!」
カノン「そんなこと言わないで、教えて下さいよ。何かあったんですか?」
バノッサ「‥‥‥‥‥‥。」
カノン「話してくれないと、気になって眠れなくなりますよ。」
バノッサ「フンッ、仕方ねエな。話してやるよ。
色々考えたがな‥‥‥。無職の派閥からの誘いは、蹴ることにした。」
カノン「えっ‥‥‥! ほ、本当ですか、バノッサさん!」
バノッサ「んなことで、ウソついてどうすんだよッ!
オレ様は、オプテュスのリーダーだぜ? あんな奴らの言いなりになる気はねえよ。」
カノン「バノッサさん‥‥‥! ボク、ボク、嬉しいです!」
バノッサ「ケッ、んなことで泣くヤツがあるか!
借りてきた力じゃ意味ねえんだよ。自分で掴みとらねぇとな。」
カノン「バノッサさんならきっとできますよ! ラージュさんもそう思いますよね?」
バノッサ「‥‥‥あァ? ラージュって誰だよ。んなヤツ、うちにいたか?」
カノン「えっ? あの‥‥‥ボク、今‥‥‥なんていいましたか?」
バノッサ「ハァ? テメェ、頭どうかしちまったのか?」
カノン「い、いえ、大丈夫だと思います‥‥‥。
(‥‥‥どうして、ラージュなんて名前が出てきてしまったのだろう)
(知らない人の名前なのに‥‥‥)
(だけど、ボクは当たり前のように、その名前を呼んでしまった)
(‥‥‥そう、いつだってその人はボクの側にいてくれたから‥‥‥)」
カノン「‥‥‥あぁ、なんてことだ。
ボクは、ずっとずっと忘れていたのか。
あの世界のことも、大切な友人たちのことも。
自分の世界に戻ってきたから、記憶が消されてしまったんだろうけど‥‥‥。
ボクは忘れたくなかった。とても、大切で特別な思い出だったから。
ラージュさん‥‥‥ごめんなさい。
あなたを忘れてしまうなんて、ぼくは、なんてひどいことを‥‥‥。」
ありがとう。カノンがそう言ってくれれば千人力だよ!
カノン「ラージュさんたちは、本当にあの世界と共に消えてしまったんだろうか。
ボクは最後の最後まで、助けてもらうばかりで何も出来なかった‥‥‥。
いつだってそうだ。後悔ばかりが、胸に残る。
もう一度、ラージュさんに会えたら。もう一度、あの世界にいけたら‥‥‥。
ボクは、この想いを伝えられたかもしれない。」
カノン「‥‥‥‥‥‥。」
バノッサ「オイ、カノン。」
カノン「‥‥‥‥‥‥。」
バノッサ「カノン! 聞こえてねェのかよッ!」
カノン「あっ、は、はい! すみません!」
バノッサ「シケた面してんじゃねぇよ! 空気が、悪くなんだろーがッ。」
カノン「シケた面って‥‥‥ヒドイなぁ。
(バノッサさんは、何も覚えてないのか‥‥‥。でも、きっとそのほうがいい)
(この寂しさと無力感を味わうのは、ボクだけでいいから‥‥‥)」
――だけど。ボクだけは、決して忘れない。
この記憶がある限り、彼らの存在はなくならないはずだから。
すべてをかけて、ボクたちを救ってくれた、異界の盟友‥‥‥。
ボクは、あなたのように強くなりたい。大切な人を、守りたいから。
ラージュさん、ボクはあなたに会えてよかった‥‥‥。
あなたのおかげで、ボクは変われた。‥‥‥ありがとうございます。
ラージュ「オレはなにもしてないよ! 変われたのは、カノンの強さだ。
オレの方こそ、ありがとうな。その言葉だけで、十分だよ。」
カノン「‥‥‥えっ!?」
バノッサ「あ? なんだよ、急に大きな声出したりして。」
カノン「い、いえ‥‥‥。なんでもありません。
(今、確かに声が聞こえたような気がした‥‥‥)
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥‥ああ、そうか。そうですよね、ふふっ。」
バノッサ「おい、独りで笑ってんじゃねェよ! 気味悪いだろーが!」
カノン「すみません。ちょっと嬉しいことがあって‥‥‥。」
バノッサ「にやけてるヒマがあるなら、さっさとメシを作れ!」
カノン「はいはい、分かりましたよ。すぐに支度しますから、待ってて下さいね。」
バノッサ「フン、早くしろよ。オレ様は、気が短いんだ。」
カノン「ああ、そうだ。バノッサさん。干し肉は、どのぐらい入れますか?」
バノッサ「ハァ? なんでオレ様に聞くんだよ! 好きなだけ入れりゃいいだろッ!」
カノン「分かりました、たくさん入れろってことですね。ほら、やっぱり好物なんじゃないですか〜。」
バノッサ「うるせぇッ!!」
――ラージュさん。
これでお別れだなんて、ボクは思いません。
‥‥‥だって、目を閉じれば、いつだって、あなたに会えるんですから。
大切で特別な、ボクの友人に――‥‥‥。
END